昔ウィリアム・モーテンセンという写真家がいた。人物ライティングを定義した人とか言われてる以外はあまり知られてないようだ。実はモーテンセンは適正露出や現像法にこだわらず、写真を加工したりして、アンセル・アダムスなどの正統写真派に毛嫌いされてたという人物だ。
面白いのがモーテンセンの露出と現像の考え方だ。
例えば露出と現像それぞれをオーバー・適正・アンダーにした9枚の写真がある。(要スクロール)モーテンセンはこのうち3番と7番を残して全部却下してしまう。適正露出は却下。 正統適正写真の5番もつまんないから却下。これですでにカッコいい。自分もいっぺん言ってみたいぐらいカッコいい。
3番と7番は減感・増感現像として現代では一般的になっている。3番の減感現像は、影の階調を出しやすいけど、明るい部分がつまらなくなる。なのでモーテンセンのアプローチは、7番の増感現像から階調を拾いだすというやり方だった。
自分はTRIXをISO1600で撮った画が好きだ。だが影の部分がべったりとなりやすい。ウチの黒猫なんて黒潰れして、2次元ネコになってしまう。 ここしばらくなんとかこの2次元ネコ状態から発展しようといろいろとやっていた。
だが、この答えは70年も前に自由な発想を持つ写真家が出していた。 モーテンセンは増感撮影したネガから階調を引き出すために、なんと冷蔵庫で2、3日かけて静止現像していたのだ。
もちろん現代のフィルムと現像剤でやっても大した結果は出ないかも知れない。だが枠にとらわれないやり方があるのだ。これはめちゃくちゃ面白い事だ。
乱暴な話だが今時撮影に正統もなにもないと思う。 きれいな適正写真が撮りたければデジカメを使えば良い。デジカメは実は画像加工の極致だが、誰かがプログラムした設定以上の事はできない。枠にとらわれていては代わり映えしない世界しかない。
フィルムを使うのは自分なりの理由がある。それが正統派なのだと思う。